乞食と福の神
乞食(こじき)が,ぼろぼろの袋(ふくろ)を担(かつ)ぎながら,街(まち)を歩いていました。
歩きながら,独り言(ひとりごと)を言っていました。
「どうして,お金持ちというものは,お金や物を、たくさん持っている上にも,なお,もっと欲しがるのだろう。人というものは,その人のみについた分(ぶん)ということを,知っていなくてはいけない。」
そのとき,どこからか,ふいに福の神(ふくのかみ)が現れました。
「わしはお前の今の独り言を聞いて,感心(かんしん)したよ。ちょうど、よい具合(ぐあい)に,ここに金貨(きんか)をたくさん持っているから,お前にみんなやってもよい。さあ,その袋へ入れてやろう。」
乞食は喜んで,袋を福の神の前に,出しました。
「ところで一つ約束(やくそく)がある。それはもしこの金貨が,袋からあまって出て,土(つち)の上に落ちたら,みな塵(ちり)になってだめになってしまうということだ。お前の袋は,大分(だいぶ)古いようだから,あまりたくさんいれないほうがよいぞ。」
乞食は大(おお)喜んで両手で,袋の口を広げました。
その中へ福の神は,バケツに水を入れるように金貨を注ぎ込みました。
「もう,これくらいで,いいだろう。」
「もうすこし、ください。」
「わしは構(かま)わないが,ふくろが破れ(やぶれ)はしないか。」
「大丈夫(だいじょうぶ)ですから,もうすこし。」
「おい,もうこんなに、大金持ちになったぞ。」
「でも,もう一つかみだけ。」
「さあ,これで一杯(いっぱい)だ。」
「でも,もう一枚だけ。」
「よし,いれるぞ。」
そこで,福の神が,一枚の金貨を落としますと,一緒にたちまち袋の底(そこ)がぬけて,金貨は,一度に土の上に落ち,そうして,約束通りに,みな塵になってしまいました。
それと一緒に,福の神の姿(すがた)は消えて,乞食の手には,空(から)の袋が,残っただけでした。
つまり,乞食は,この袋の底が抜けただけ,前よりも損(そん)をしたことになりました。
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